11月に東京で行われたデフリンピックで手話通訳の仕事を担っていました。
今回は国際的な大きな催しですので、基本的に、ろう者が担う国際手話通訳者とペアで通訳を行います。なので、いつもの手話通訳とはまた違う動きが必要になります。
このブログの「手話通訳の仕事」(2020/7/31)で書いたように、手話通訳は単に手話と別の言語を置き換えるだけの仕事ではありません。このときのBlogでは、「ろう者の背中をひと押しするような働きかけをすることがあります。」と書きました。このように、そのときどきの状況に合わせて、臨機応変に動くことが必要になります。
今回のデフリンピックでは、次のようなことがありました。
現場にいたのは、おそらく手話通訳やろう者を見るのは初めての、競技団体の方(聞こえる方)。そしてろう者の競技責任者(国際手話使用者)、国際手話通訳、日本手話通訳2名。明日に行われる競技に出場する選手の順番を決めるため、エクセルのランダム配置機能を使って名簿を作る作業をしていました。
一見なんてことのない作業のように思えますが、ろう者が使用するのは視覚言語ですから、「見る」必要があります。そうすると実際的には、
①ろう責任者がパソコンを見る
②国際手話通訳者に指示内容を伝える
③国際手話通訳者が日本手話に変える
④日本手話通訳者が音声にする
⑤音声を聞いて、競技団体担当者が変更する。変更した旨伝える
⑥国際手話通訳者が通訳する
⑦通訳を見てから、ろう責任者がパソコンを見て確認する
こういう流れになります。もうこれだけで手順が多い! 視線移動が大きいので、⑦でパソコンに視線を戻しても、すぐに見たいところに視点が戻らない。とても単純なことなのに、とてつもなく面倒くさく時間のかかるやり取りになっていました。時間はもう夜。明日のことなので、早く終わらないといけません。
そのときに交代要員(待機)だった私は、ろう責任者の横に座り、方法を変更する旨を伝えました。
基本的には私、ろう責任者、競技団体の方とで作業をします。もう一人の日本手話通訳者には、音声情報を国際手話通訳者に伝える役割を担ってもらいました。国際手話通訳者の仕事はこの段階ではありません。ただ、複雑な話になったときには通訳に入ってもらわないといけないので、手話通訳を通し、状況把握をしておいてもらう必要がありました。
作業は、基本的には、単にエクセルのA行目とB行目を入れ替えるだけのことなので、ろう責任者がパソコン上で変更してほしい場所を指さします。あるいは、紙に書きます。それを私が音声にして、競技団体の方に伝えると、競技団体の方、この方のやり方が良かったのですが、行の色を反転してくれます。これでろう者としては、意見が伝わっていることが確認できます。それを移動させて改めて順番を確認、その作業の繰り返しです。そうすると、ろう責任者も競技団体の方もパソコン画面に集中できて作業時間が短縮されます。
このやり方に変更して、手順が減り、テンポよく作業を進めることができました。通常の通訳方法しか頭になければ、こうはいかなかったでしょう。
とはいえ、さすがにここまでするのは、手話通訳者の仕事の範囲を超えていたかなー?と若干気になって、ずっと頭のなかでは引っ掛かりがありました。
先日受けた手話通訳士現任研修で、手話通訳者は「場の調整技術」が必要だという話がありました。それを聞いて私は、このときの私の介入の仕方も、「場の調整」の一つだったんではないかと思い至りました。それで、少しほっとしたのでした。
手話通訳者はこのように、当事者同士のコミュニケーションがスムーズに進むように仲介する役目はもちろんのこと、その場で求められる結果が得られ、WIN-WINな現場になるように場合によっては、手立てを考えて提案したりすることも必要だと思います。手話通訳者だけで対応が難しい場合は、その場にいる関係者を巻き込んで、動いてもらうことも必要です。これも、「場の調整」技術の一つになります。
「場の調整」技術は、一朝一夕には身に付きませんし、意識していないと、なかなかできないことだと思います。私は長い手話通訳歴のなかで、先輩の、特に年上の通訳者の「場の調整」方法を実際に目にし、そこから学んできました。
「手話通訳者の役割は、言語を置き換えるだけではない」
このことを次の世代を担う通訳者にもきちんと伝えていかないといけないな、と改めて思わされた出来事でもありました。

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