まず、手話通訳の基本的なことを説明すると、手話通訳には2つの言語変換パターンがあります。一つは音声を聞いて、手話でその内容を表現するパターン。これを「聞き取り通訳」と言います。もう一つは手話を見て、その内容を音声にするパターン。これを「読み取り通訳」と言います。
私の周りを見てみると、圧倒的に、「読み取り通訳は苦手」という人が多く、読み取り通訳がある場合は通訳依頼を受けない、あるいは、読み取り通訳は担当しないという通訳者もいます(←これは本当にひどい話で、手話通訳者としては失格だと思います)。
私はというと、聞き取りと読み取りでどちらが得意とか、どちらが苦手ということはなく、同じくらいできて、同じくらいできない、という感じです。 一般的に読み取りを苦手とする人が多いのに、なぜ私はそうでないのか、考えを巡らせてみました。
通訳を始めたころ、それは手話で仕事を始めたころとほぼ同義なのですが、仕事で読み取り通訳をする機会が多々ありました。特に年に3~4回は全国からいろんなろう者が集まり会議が行われるため、議事録作成のために職員はその読み取り通訳を担当しなければなりません。関西に住むろう者の手話はまだ大丈夫なのですが、北海道や九州や沖縄に住むろう者の手話は、表現、これは手の形だけでなく表現のリズムも違っていてとっても難しい💦 読み取り通訳をしていることを考慮するわけでなく普通に話し合っているので、スピードが早いうえ、まだ新入職員だった私にとっては、内容が専門的過ぎてちんぷんかんぷんなところが多く、最初のほうはお手上げで先輩職員によくマイク(レコーダー)を取ってもらっていました。
おそらく、それでかなり鍛えられたのだと思います。なにせそれを12年間ほどやってきたのですから。
なので今、まったく見知らないろう者の読み取り通訳となっても、もちろん事前打ち合わせや顔合わせでどういう表現をするかを見ていますが、いざ通訳するとなったときに緊張することはあっても、「できない・無理」と思うことはありません。
一方、通常の登録通訳者として活動をしていると、圧倒的に「聞き取り通訳」のほうが多く、「読み取り通訳」をする機会は少ないと思います。それは、ろう者が、聞こえる一般の人を前に話すという機会が圧倒的に少ないことと関係していると思います。ろう者が話す機会、多くはろう運動の関係の集会や会議、あるいは行政や学校主催の、障害を学ぶ機会にろう当事者が話す、といったケースではないでしょうか。そうなると、話される内容も話すろう者も限定的、「よく知った内容」「よく知った人」になりがちです。
ということを考えるととどのつまり、読み取り通訳の苦手意識を克服するには、意識して幅広く経験を増やすしかないと思うのです。
ただ、読み取り通訳というのは、
①手話を読み取る(理解する)
②理解した内容を日本語で再編成する
③再編した内容を声を出していう
主にこの3つの要素があるので、どの経験も増やす必要があります。
「読み取りが苦手」という通訳者の様子を見ていると、驚くほど共通していることがあります。それは、口形をまったく読めていないということです。手話では口形で意味を表し分けしていることが多いので、口の形もしっかり見る必要があります。口の形だけでなく、顔周辺の情報で様々な意味や文法的役割を表しているので、口の形が見えていないということは、それらすべてを見落としているということです。
慣れた通訳者になると、視線はどちらかというと顔周辺を見ています。その視界になんとなく手が入っていて、それで意味を確定する、という方法をとっているように思います。手(指)に視点をフォーカスするのは、数字や指文字を表すときくらいじゃないでしょうか。
ですから、①ではまず、視界でとらえる範囲を広げる必要があります。胸より上あたりで表されている情報をすべてキャッチできるように、ひたすら見る。そして慣れる。
それができるようになったら、次はそれを日本語に再編する。スムーズに言葉を継げるようにするためには、まず日本語の語彙を増やすこと。語彙がたくさんあれば、状況や話し手、対象者に合わせた言葉をチョイスすることができます。語彙がなければ、言葉が出てこず、慌ててしまいます。通訳者は普段からテレビや新聞、本をたくさん見るように言われる所以はここにあります。私は書物をじっくり読むことが苦手なので、語彙を増やす方法はもっぱら聞こえてくる音声を意識や記憶に留める、です。
最後に、日本語に再編された内容を言葉にする(声に出して言う)。これはかなり高度な技術になります。これこそ、もう練習あるのみです。
そんな感じで①②③のどれに課題があって何をすればよいかを理解し、経験を増やしていけば、自然と「できる!」が増えてくると思うのですが、どうでしょうか。苦手克服の、何か参考になるでしょうか?
ところで余談ですが。
私の場合、心に余裕をもって読み取り通訳しているときは、どっしり構えて、マイクを持った腕をもう片方の腕で支える感じで読んでいます。これが余裕がないときには、食らいつくような姿勢になっています。車の運転と似た感じですね。もし私が読み取り通訳しているのを見かけたら、どっちの姿勢になっているか、観察してみてください(笑)

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