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アルプスと年齢

 「等高線」ではここ数年、夏になると必ず、北か南アルプスの企画を立てています。

 「等高線」ではいわゆる「年齢制限」的なものは設けておらず、個人個人のお客様の日頃の登山に行く頻度やその山のレベルから、お申込み可能かどうか判断しています。これまでその判断は「甘め」で、どちらかというと、行きたい気持ちを後押ししたいなと考えて受けれ入れてきたのですが、ここ2,3年は思うところがあって、今後は少し厳しめにしていこうと考えているところです。

 

 「思うところ」の一つは、やはり70代を過ぎると一般的に、それより若い方に比べて「持久力」や「体力」が弱く、1日の行程の後半になると極端にスピードが落ちていくからです。夏山は特に、午後になると天気が悪化する可能性が高まり、場合によっては雷雨につかまったりします。こうなると、他のお客様の安全性までもが脅かされることになります。また、歩くペースが違いすぎるため、他のお客様にとっては自然な歩行ペースでなくなり、余計なストレス・負担を増やしてしまうことになります。若い方であれば、少し休めば体力も持久力も回復しますが、高齢の方になるとそうはいきません。

 理由のもう一つは、「集中力」の維持も難しいということです。アルプスに入るとなると、通常最低でも1泊2日の日程になります。ゆっくりペースで歩くとなると、2泊以上の日程になりますが、先ほど言ったように、歳とともに回復力も落ちるので、もう3日目となると、自覚しているかどうかは別にして、疲労が相当蓄積しており、集中力も切れがちです。集中力が切れると、道に迷ったり、転んだりします。低山であれば、転ぶ、程度で済む話ですが、アルプスで転ぶというのは、「滑落」する可能性も含みます。あるいは、岩稜帯の通過が厳しくなってきます。

 世間一般の山岳事故のニュースを見ていても、やっぱり70代以上の高齢者、しかも単独山行での事故や救助要請がこのところは特に多いなと感じています。これらはやはり上のようなことと関係があるでしょう。

 また私の知り合いの高齢登山者を見ていて感じることは、70も過ぎれば、その体力を維持するのに不断の努力が必要だということです。毎日頑張って何らかのトレーニングをして、やっと「現状維持」です。何もしなければ、あっという間に体力が落ちていきます。コロナだ、酷暑だと言って家に閉じ籠っていたらダメなんです。

  ですから、いくらガイド登山とはいえ、アルプスに行きたいと思ったら、死ぬ気でトレーニングしないといけないということです。少なくとも半年は前から、毎週低山ハイクに行く、それ以外の日は毎日くらの勢いで日に1時間は歩く、など。

 20代30代の若い時から登山をしている方はその積み重ねがあるので、高齢になっても足腰が強い方が多いです。でも、50代や60代から登山を始めたという方だと、その積み重ねが少ないので、より意識的なトレーニングが必要になってきます。

 そこまで皆さん頑張りますか? 頑張ってますか? 「70代になって初めてのアルプス」、聞こえはいいですが、そこに行くだけの覚悟はありますか?と問いたいです。

  正直なところ、最近登山を始めて65を過ぎてるけれどもアルプスに行きたい、というのはかなり挑戦的なことと思いますし、70代以上の方は、止めたほうがいいと思っています。

 もちろん、諸々の力には個人差があります。でも、ツアー登山で70歳以上の方は一律お断りというのも、ある程度納得できる話だなぁと感じるこの頃です。

 

 山を始めたら、やっぱり一度はアルプスに行ってみたいと思うでしょう。それくらい山としては別格です。そのことは理解できます。でも、残念ながら、その魅力に気づいたのが遅かったかもしれません。

 

 アルプスでなくても低山であっても、素晴らしい山は日本の至るところにあります。2,000m級の山でも、眺めがとても良い、それなのに、難易度は高くない、そんな山もたくさんあります。そういう山を楽しむのもいいんじゃないですか?

 「アルプスを諦めてください」と言われるとショックですが、少し目先を変えてみませんか?

 楽しめてこその山じゃないでしょうか。

 

 ここ最近そのようなことを考えております。